2024/5/24★寺川貴也が注目する最新NEWS TOPIC★

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~AIコンプライアンスとプライバシー~

 

プライバシーの専門家の多くが今、AIに目を向けています。

AIはデータを扱うからプライバシーが大切だ、というひどく直線的なロジックが働いているようにも感じられます。

GDPR第22条に規定されている「自動化した意思決定」に対する権利はまさに機械学習とデータ保護が交わるところですが、

AIで議論すべきポイントはそれ以外にも数多くあります。

 

発散しがちなAIの議論ですが、私なりにプライバシーとの関係で考えるべきと思うポイントをまとめておきます。

 

まず、AIコンプライアンスとプライバシーコンプライアンスは異なるものであるという点を指摘しておきます。

AIコンプラインスを行うためにはガバナンス構造を組織に構築し、系統立ててAIシステムをユースケースごとにモニタリングし、

組織内を教育し、継続的なリスク評価を行うことで、組織が利用しているAIリスクを把握しながら管理することが必要です。

これは、プライバシーマネジメントでガバナンス構造を構築して系統立てて管理するというアプローチとよく似ています。

リスクを管理するには、或いはアカウンタビリティを担保するには、ガバナンス構造を構築して運用するという方法が現状最も合理的です。

その意味で、AIコンプライアンスとプライバシーコンプライアンスは似ています。

もっと言えば、プライバシーコンプライアンスと情報セキュリティコンプライアンスや品質マネジメントシステムの運用も似ています。

しかし、プライバシーコンプライアンスとセキュリティコンプライアンス、品質マネジメントが同じものという人はいません。

アプローチは同じで、場合によっては重複する領域があっても、必要とされる専門性が異なるからです。

 

AIについては、プライバシーの考え方を多く応用することができる部分が多くあるものの、

AIガバナンスの出発点としてのみ機能するという理解が正しいように思えます。

 

次に、AIコンプライアンスのアプローチは、基本的に「製品安全」のアプローチを採用しているということも忘れてはいけません。

例えばEU AI法について、これをプライバシーの法律と断ずるのは無理があります。

EU AI法は製品安全のフレームワークであるCEマーキングを利用し、

規定された認証プロセスを経て第三者認証機関が合格したことを示すテストレポートを保有する製品のみを欧州市場に上市させる、という仕組みです。

データを扱うものの、GDPRとは本質的に異なる法律です。

プライバシーが関与するのはAIに対するリスクアセスメントに関する部分のみであり、

しかも、プライバシーが占めるのは、自動化した意思決定による個人の権利と自由が侵害される可能性に対するリスク評価と、個人の権利や透明性の担保といった部分に集約されます。

 

しかも、このような評価が求められているのは一部のハイリスクAIに限定されているので、

プライバシー専門家が担うことができるようなリスク評価の仕事はそれほど多くないというのが私の印象です。

アルゴリズム監査についても、おそらく専門のソフトウェアが今後いくつか生まれてきて、

CEマーキングの審査でそのようなソフトウェアを用いたアウトプットをもとに評価する、といったことが行われるようになるはずです。

アルゴリズム監査は自動化できるプロセスだからです。

 

私は、プライバシーの専門家がAIに興味をもつのは、プライバシーが基本的に「良い社会を生む」ということを目標にしているからだと思います。

「個人の権利と自由と利益を守る」というのは、私たち人間の間で普遍的に共有される価値観ですし、人が長い歴史の中で痛みと共に学んだ知恵でもあります。

 

私たちプライバシーの専門家は、仕事を通じてこの知恵を社会に根付かせる役割を担っているのです。

AIに多くのプライバシーの専門家が目を向けているのは、きっとそういったプライバシー専門家という職業を選択した者にとって、見過ごせない課題だからではないでしょうか。

その意味で、プライバシーの専門家がAIの仕事に関わることはとても良いのかな、と私は考えています。

 

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