2025/1/29<テクニカ・ゼン>CEO寺川貴也が注目するNEWS TOPIC

【認知オフローディング】

養老孟子さんがどこかでこういっていました。「人間の弱点はできることをすべてやってしまうことです」。彼は続けます。「できることであっても「やらない」という選択ができる人が成熟した人間です」。

  「できるからやらなければならない」と開発を進めてきた近代が生じた問題は際限がありません。化石燃料の採掘、森林伐採、際限のない都市開発、増え続ける宇宙ゴミ、海洋資源の乱獲、と数え上げればリストはどこまでも続きそうです。昨今の異常気象は、際限のない人間の活動が原因の一つと言われています。それでもまだ、私たちの行動パターンは変わっていません。AIの開発と活用に前のめりになっている今の世相は、もう一つの「できることをすべてやってしまう」行動の現れのようにも見えます。

  生成AIと呼ばれる技術は便利な技術です。カンボジアで出会った大学生たちの大半はほぼ毎日活用していると言っていました。私は、そんな彼らに「便利なツールを使うことは大切で使えるようになるといい。それと同時に、便利なツールを使うとそれまでよりも「考えなくなる」ことに注意してください。ツールを使うためには「考えられる力」が必要です。これからは意図的に「考える」ようにしてください」と伝えました。Meta社がファクトチェックを停止すると宣言するような今の時代、「考え」、煽動されることなく「判断する」賢明さが本当に必要です。「偽情報」や「誤情報」が世の中に出やすくなっている中、「考える」ということは身を護るため のライフスキルといっても過言ではありません。

  先日、興味深い論文に出会いました。タイトルは”AI Tools in Society: Impacts on Cognitive Offloading and the Future of Critical Thinking (社会におけるAIツール:認知オフローディングと批判的思考の未来への影響)というものです。 ( URL: https://news.technica-zen.com/l/m/tIuwdpnCZssR0v ) 非常に良い論文なので、ぜひ目を通していただければと思います。

  この調査研究はイギリスで行われたもので、666人のアンケート調査結果から「AIツールは効率性とアクセシビリティの面で利点を提供する一方で、ユーザーが深い内省的思考プロセスを行うことを低下させる(認知オフローディング (cognitive offloading))可能性がある」という結論を得たものです。この論文では「高い教育水準人は優れた批判的思考 (critical thinking) スキルを備えている」ことから、AIツールを使用することで「AI技術への批判的関与を促進する教育的介入の必要性を強調し、これらのツールが提供する利便性が本質的な認知スキルを犠牲にしない」施策が必要だとしています。

 論文は、AIツールを利用するときには「批判的思考」を高めるような使い方をするようにするのが望ましいと述べています。冒頭で述べた「できることであっても「やらない」」という選択は、批判的思考があって初めて可能なことです。AIツールを通じた認知オフローディングを止めることは、過去の失敗を繰り返さないために重要な一歩となるような気がします。企業のAI推進を担当する方は、「業務効率化」だけでなく、いかに社員の「考える力」を深めるか、という視点も取り入れていただくといいのではないかと思います。

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2025/1/10<テクニカ・ゼン>CEO寺川貴也が注目するNEWS TOPIC

2025年 新年のご挨拶】

新年、あけましておめでとうございます。

2025年を迎えました。読者の皆様は、よい年末年始を過ごされたでしょうか。今年は昨年の年始のような災害や大事故もなく、天気にも恵まれたお正月らしいお正月だったように思います。

 

2025年もデータの世界では昨年に引き続きAIが中心的な話題となりそうです。昨年末には韓国がAI法を成立させましたし、日本でもこの1月から始まる国会でAI法案が提出されると報道がありました。欧州のAI法も施行が順次始まります。その一方で、各法案を眺めても、その内容は依然としてハイレベルなものにとどまっていることの方が多いというのも事実です。政治的な分断が顕著な今日にあって、事業者がAIコンプライアンスにおいてどうポジション取りをするのかはとても難しい課題です。

 

法律を少し離れてガバナンスに目を向けると、今年はその重要性がより一層増すように思えます。昨年はAIガバナンスの重要性が各方面から唱えられていましたが、こちらも何をどうするのかについては模索している段階でした。2025年は、1年の狂騒を経てより現実的なアプローチが議論されることでしょう。大手トップ企業だからこそ実現可能な高度なものから、中小企業や小規模組織が実装するためのチェックリストに近いものまでさまざまなものが生まれてくると思います。基本は品質マネジメント、環境マネジメント、情報セキュリティマネジメント、プライバシーマネジメントといった従来取り組まれてきたリスクマネジメントのアプローチが軸となりま す。プライバシーコンプライアンスのために確固としたプライバシープログラムを築いてきた事業者にとってはそれほど大きな調整を行うことなくガバナンス体制を拡張できることでしょう。

 

形から入ることは大切です。武道、書道、茶道、華道など、「道」とつくものはすべて「型」を学び、達人の域に達してはじめて自らの形を創り上げます。「型」が正しければある程度の場所、換言すれば、創意工夫が違いを生む前の出発点までは到達することができるのです。でも、その先の「活きた」形に至るには、「型」だけではだめです。私はこのことを大衆浴場のマッサージ器を見て思い至りました。

 

大衆浴場には高価な自動全身マッサージ器があります。それと同時に多くの按摩師が待機するマッサージルームもあります。マッサージ器はいつも空いているのにマッサージルームは予約しなければなかなか入れません。マッサージ器は確かに身体をほぐしてくれるのですが、人手によるマッサージのほうが人の嗜好にあうようです。この事実は、これからのAIの時代を生きる私たちを勇気づけてくれます。

 

AIが普及する時代、AIが実現するのは「型」の完成形にちかいもののように思います。しかし、人はアルゴリズムではないので「型」の次のステージに進みます。次のステージに進むには、「意思」がなければなりません。AIは、この「意思」を持つことはできないため、AIが人を置き換えるということは本質的には難しいことのように感じます。私はAIが消費する膨大なエネルギーについてはかなり心配しているものの、AIの時代に人間社会が順応できることについては楽観しています。

 

事業者において、ガバナンスの重要な役割を担っている読者の皆様の仕事は、まずはこの「型」の完成形に組織を引き上げることになると思います。そうすることで、変化に強いしなやかな組織を生み出すことができます。決して簡単な仕事ではないですが、価値のある仕事なので、ぜひ希望をもって取り組んでいただけたらと思っています。当社は、そういった大切な仕事をされる皆様をサポートし続けられる存在として、当社の努力を続けていく所存です。

 

今年もよろしくお願いいたします。

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