2025/4/18<テクニカ・ゼン>CEO寺川貴也が注目するNEWS TOPIC

【DPFの行方】

10年ほど前のことでした。
「グローバル化した今の時代に、第二次世界大戦のような戦争はもう起こらない」と、私はある人からそう教えられました。確かにそうかもしれない、と当時は思っていました。

ところが今、現実は私たちの想像を裏切っています。ロシアがウクライナに軍事侵攻し、アメリカではトランプ氏が主導する“貿易戦争”が展開されています。
会社経営をしているとよく感じるのですが「まさか」と思うような出来事は、時に本当に起きてしまうものです。だからこそ、私たちは知恵を絞り、冷静に、そして柔軟に乗り越えていかなければなりません。

さて、プライバシーの分野でも気になる動きが起きています。
米国とEU間のデータ移転を合法化する枠組みである DPF (Data Privacy Framework) には、「政府による監視が、プライバシーや市民的自由ときちんとバランスが取れているかを監視する」役割を担う Privacy and Civil Liberties Oversight Board (PCLOB) という独立機関があります。

ところがトランプ氏は最近、このPCLOBに所属する民主党員3名を解任しました。もともと欠員が1名あったため、現在この委員会にはたった1名しか残っていません。超党派の複数名で構成されるべきと法律で定められている委員会が、実質的に機能していないという異常事態です。

この事態を受け、欧州の一部の専門家の間では「DPFの十分性認定を再検討すべきではないか」という声が上がり始めています。
現時点では、米国との越境データ移転を行う企業にとって、DPFよりも SCC (標準契約条項) を利用するほうがリスクが少ないといえるでしょう。

私自身、今の米国の政権には大きな懸念を抱いています。
人権を尊重する姿勢や法を守る意識が、ここまで低下してしまっているとは…。私たちプライバシーやガバナンスの専門家にとって、非常に困難な状況です。なぜなら、私たちが大切にしてきた価値観そのものが、いま世界で最も影響力のある国のリーダーによって次々に否定されてしまっているからです。

ただ、決して諦めてはいけません。
トランプ氏の行動に疑問を持ち、問題視している人はアメリカ国内にも多くいます。
ブラック企業で働くのが敬遠されるように、誰も「暴君」の下で働きたいとは思わないのです。

だからこそ、私たちにできることがあると信じています。
それは、どんな時代にあっても倫理と人間の尊厳を大切にする企業文化を支えることです。荒波のような社会情勢の中で、普遍的な価値を守り続ける姿勢は、私たち自身の誇りにつながります。そしてその誇りが、組織を強くするのではないでしょうか。

私たちは、ただ世の流れに流される存在ではありません。
むしろ、自分たちが望む社会のかたちを、日々の仕事を通じてつくっていく担い手なのです。
そんな想いで、皆さんも一歩一歩、お仕事に励んでいただきたいと思います。

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2025/4/4<テクニカ・ゼン>CEO寺川貴也が注目するNEWS TOPIC

【未来を見据えた動きを】

ここ数年、野菜や米の価格が高騰しているというニュースが流れています。天候不良のためという説明がついていますが、それ以上に農業従事者と耕地の減少の影響があるように思います。農水省の公表している統計値では、2024年の作付面積は427万2千ha となっています。1956年の統計値では601万2千haと報告されているので、ほぼ3分の2に減少しています。農業経営体の数は2006年の統計値で193万5800だったのが2019年の統計では118万8800とわずか13年でほぼ半減しています。農業は家族経営で営まれることが通常で、この数字はほぼ農業従事者数の遷移に比例していることが推定されます。ちなみに、農業従事者の平均年齢は2024年の統計で69.2歳です。農業従事者減少の 傾向は今後も止まらないでしょう。

作り手が減り作る場所が減っているのであれば、気候変動への耐性も下がり供給が不足するというのは別に驚くべきことではありません。「異常」な出来事は、理屈を考えればそれほど異常に見えないことがしばしばあります。

私たちが取り組む「ガバナンス」とは、「異常」な出来事の裏にある摂理を見つけるための装置です。「農業統計」が存在するように、ガバナンスは「組織についての統計」を生み出し、組織の運営者が、(その気があれば) その姿を客観視できるようにしてくれます。ガバナンスを観察すれば、組織が適切に運営されているか、健全な精神を宿しているかを見て取ることができます。

ガバナンスを活かせるかどうかは、組織の運営者の能力と力量にかかっています。現状維持と責任をあいまいにする態度では、多くの場合ガバナンスの取り組みは失敗します。ただ、最近のニュースでもしばしば表面化している通り、「問題の先送り」や「問題がそもそもないことにしてしまう」という無責任な事例は発生します。ガバナンスを正常に運営するにはエネルギーが必要であり、そのエネルギーを確保することは容易なことではないからです。ガバナンスを運用するには、組織を大切に思い、より良い場所にしたいと願う、良識があり、規律を備えた、行動力のあるリーダー層の存在が欠かせません。

4月1日のニュースで、新入社員を「おもてなし」する会社が取り上げられていました。企業活動を通じて社会を「おもてなし」することになる人材を、「おもてなし」していては最終的に組織の商品、サービスの品質を落とすことにつながり企業の破滅への道につながりはしないか、という気持ちもわいてきます。100時間を超える残業、性暴力がある組織、暴力や暴言がはびこる職場は論外ですが、だからといって緊張感のない職場も危険なものです。組織文化の変化もまた、「ガバナンス」が提供する指標で検知できます。ルールの遵守違反、苦情や権利請求の件数、インシデントの件数、相談件数、といった数値はリーダー層に多くの情報を伝えてくれます。

会社をより良い場所にするために、ガバナンスを通じて自分たちの組織の現在地を知り、未来を見据えた動きを行わなければなりません。

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2025/3/21<テクニカ・ゼン>CEO寺川貴也が注目するNEWS TOPIC

【民主主義が終わる時】

アメリカのトランプ大統領の振る舞いを見ていると、一つの時代が終わりに近づいているような気持になります。司法の判断を政府が無視するようになると、憲法は有名無実化します。その一線を超えようとしているアメリカは、急に危うい国にかわってしまいました。

 日本でも不可解な政治家が増え始めているので、一部の横暴な人々が社会を乗っ取ろうとする動きはアメリカだけではないようです。

 だれもが「ぶっ壊す」ことばかりを声高に唱えて、希望ある「創造する」絵を描けないというのは何とも寂しいことだと思います。「ぶっ壊す」動きを止めることができない他の政治家も社会も、制度も、疲弊しているのでしょう。
当社が取り組んでいるプライバシーやAIガバナンスは民主主義と密接にかかわっています。欧州GDPRは基本的な人権を擁護する「民主主義」社会を実現するためのものとして生まれた法律ですし、AIガバナンスも少数派が多数派の暴力から保護されることを念頭においた活動という側面が多分にあります。
今の社会的なトレンドは、プライバシーガバナンスやAIガバナンスの希求する方向性とは反対の方向に進んでいます。最近は私も「権利と自由を守る」ということを以前ほど無邪気に人に伝えることができなくなってきました。理念としてのプライバシーやAIガバナンスは今、とても苦しい状態です。

では、プライバシーやAIガバナンスは今後廃れるのでしょうか?
面倒なプロセスを増やしコストばかりかかるこれらのガバナンスに関する活動は「なくなってくれたらいいのに」と多くのビジネスパーソンに願われているものであることは確かです。その一方で、「プライバシー」や「不当な扱いを受けたくない」という人の思いは現代の人々の深い部分に根差した感情でもあります。そう考えると、制度としては力を弱めることがあるかもしれませんが、当面は「ないこと」にすることができるものではないようにも感じます。セミナーや講演で、私はよく「同じことをあなたがされたらどうでしょうか?あなたの大切な人がその対象となることに耐えられますか?」と尋ねます。「違和感」を感じるようであれば、検討している活動は控えたほうが良いと思われます。「一時的な痛みに過ぎない」だとか、「新たな技術が欠陥を取り返す」だとか、いろいろな説得が行われるでしょうが、当事者意識を失わずに判断を続けることが大切です。
 科学哲学者のトマス・クーンは、パラダイムシフトが発生してもそれまで信じていたすべてが「なかったことになるわけではない」と言っています。一つの時代が終わり、混乱を経て新たな時代に向かっているとしても、私たちの日常は続きますし、人は、朝起きて、ご飯を食べて、働いて、憩い、休み、眠り、そして死んでいきます。

 流転する人間の営みにあって、奥底にある変わらないものに、プライバシーやAIガバナンスが実現しようとしているものが含まれていると私は感じています。だから、変化の時こそプライバシーの専門家が増えることが大切だと思うのです。

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2025/3/3<テクニカ・ゼン>CEO寺川貴也が注目するNEWS TOPIC

【客観性信奉やデータ依存への警鐘】

気が付けばプロ野球のオープン戦が始まる時期になっていました。この時期に甲子園球場の外野席からみる試合はとても寒いのですが、キャンプ明けのチームの仕上がりを見るのは期待感もあいまって楽しいものです。

 今年は野球の話題が面白い年です。大谷選手は再び投手と打者の二刀流に戻るようですし、イチロー選手が米国で野球殿堂入りするという偉業を成し遂げました。「能力が10だとすれば、10にかなり近いところまで引き出すことができる」と自分を評するイチロー選手であれば、当然の成り行きなのでしょうが、一ファンとしてはとてもうれしい出来事でした。ちなみに、イチロー選手によると、松井秀喜は「6とか7」までしか引き出していなかったそうです。それでもあれだけの活躍をした松井選手もおそるべきものです。

 私は以前からイチロー選手を追ったインタビュー番組や記事が好きでよく見、読んでいました。殿堂入りを記念したインタビューで、彼は「すべての練習、プレーには理由があります。現代ならデータが示す道に乗っていくのは楽だとは思いますが、それが全てなはずはないと考える。そうやって常に多くの人が信じているものに疑問をもってやってきたんですよね。」と言っています。あれだけの結果を残した人がいう言葉だけに、迫力を感じます。イチロー選手は今の野球を「データに囚われ過ぎている」と表現しています。「数値化された目に見えるデータで評価する人たちは、ピッチャーの投げるボールが何マイル以上なら何%の割合でヒットが出る、何 マイル以下ならこうなる、と決めつけてしまう。でも、そういったデータ上はヒットにできないはずのボールでも、ヒットにする技術はあるんです。そういう野球をするためには、数字を参考にしても鵜呑みにしてはいけない。感じること、考えることをやめてはいけません」

 ビジネスやディスカッションの場でも「客観性」や「数字」が重視されます。それでも、超優秀なはずのMBA卒業生がかならず成績に応じた企業を作ることができないように、「客観性」や「数字」では表せないものもあるような気がします。本田宗一郎さんや松下幸之助さんのような、型破りな創業者が人を惹きつけるのも、「感性」がそこにあるからなのかな、と考えさせられました。

 イチロー選手は殿堂入りを果たした際に「残念なこととしては、見ている人たちの感情が奪われているシーンも多いと思います。感情を表したいのに、例えば申告敬遠で投げないで一塁に歩いていくというのは、次のネクストサークルの選手がドキドキしたり、球場全体がザワザワと雰囲気が変わったり、そういう感情がなくなってしまった」と話したそうです。そういう人間の感情の動きがドラマを生み、思ってもいなかった結果を生むからこそ、面白い。データ全盛の現代にあって、選挙に勝つためにデータを活用し、売上を最大化するためにデータを活用し、とデータに依存することがますます増えている私たちに対しても、イチロー選手の言葉は警鐘を鳴 らしているようにも感じます。

 データを活用するのであれば、「感性」も生まれる形で活用するようにしたいものだと思います。

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2025/2/14<テクニカ・ゼン>CEO寺川貴也が注目するNEWS TOPIC

【フジテレビの問題】

一人の人気タレントの女性問題をきっかけにフジテレビで10時間もの記者会見が行われました。(タレントの件は「女性問題」という言葉で片付けるには抵抗のあるものです。) 私自身は記者会見を見ていませんが、記者会見を少し見たというスタッフは「異様だった」と言っていました。報道からもそれは伺えます。意味のある10時間だったのか、それとも単に、「エリート企業」をつるし上げるガス抜きになっていたのか、いずれにせよ、後味の悪い出来事です。

 この出来事はいろいろな人が話題にします。「何やってもいいと思ってしまったのかな」という意見や「フジテレビだけじゃないよね」という意見、幾人かの女性からは怖い思いをしたことがあるという経験談も聞きました。「ない」はずだった「公然の秘密」が表沙汰になった、というところでしょう。アメリカ大統領も女性に対する口封じで有罪になっていますし、われらがデータプライバシー業界でも同様の問題で裁判になっている有名な人がいるので、力のある所にはこのような出来事が偏在しているようにも感じます。私個人としては、当事者が「これでよい」と思って選択を続けることのできる世界であってほしいと思います。権力と経済力だけで物 事がきまる世界は嫌だなと思いますし、「無理強い」で何かさせられるというのはつらいことです。

 ところで、ここ数年国内や世界各国で傍若無人なふるまいを目にすることが増え、世の中が殺伐としてきています。そんな中、コーポレートガバナンスやAI ガバナンス、プライバシーガバナンスがどこまで持ちこたえるか、私は関心を持って観察しています。「ルールがおろそかになっている時代」に「ルールを守っても意味がない」という判断も当然あるからです。その一方で、兵書の「孫子」には「…法令 孰れか行わる、 … 吾れ此れをもって勝負を知る」とあり法令の厳守が勝敗を決する要素の一つと記されており、ガバナンスをおろそかにしないという選択も戦略として有効ではないかと感じています。

世の中の動きを変えることはできませんが、繰り返された歴史が示すことから学び自分の選択を行うことはできます。その選択の先に納得のできる世界が広がっているといいと思います。

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2025/1/29<テクニカ・ゼン>CEO寺川貴也が注目するNEWS TOPIC

【認知オフローディング】

養老孟子さんがどこかでこういっていました。「人間の弱点はできることをすべてやってしまうことです」。彼は続けます。「できることであっても「やらない」という選択ができる人が成熟した人間です」。

  「できるからやらなければならない」と開発を進めてきた近代が生じた問題は際限がありません。化石燃料の採掘、森林伐採、際限のない都市開発、増え続ける宇宙ゴミ、海洋資源の乱獲、と数え上げればリストはどこまでも続きそうです。昨今の異常気象は、際限のない人間の活動が原因の一つと言われています。それでもまだ、私たちの行動パターンは変わっていません。AIの開発と活用に前のめりになっている今の世相は、もう一つの「できることをすべてやってしまう」行動の現れのようにも見えます。

  生成AIと呼ばれる技術は便利な技術です。カンボジアで出会った大学生たちの大半はほぼ毎日活用していると言っていました。私は、そんな彼らに「便利なツールを使うことは大切で使えるようになるといい。それと同時に、便利なツールを使うとそれまでよりも「考えなくなる」ことに注意してください。ツールを使うためには「考えられる力」が必要です。これからは意図的に「考える」ようにしてください」と伝えました。Meta社がファクトチェックを停止すると宣言するような今の時代、「考え」、煽動されることなく「判断する」賢明さが本当に必要です。「偽情報」や「誤情報」が世の中に出やすくなっている中、「考える」ということは身を護るため のライフスキルといっても過言ではありません。

  先日、興味深い論文に出会いました。タイトルは”AI Tools in Society: Impacts on Cognitive Offloading and the Future of Critical Thinking (社会におけるAIツール:認知オフローディングと批判的思考の未来への影響)というものです。 ( URL: https://news.technica-zen.com/l/m/tIuwdpnCZssR0v ) 非常に良い論文なので、ぜひ目を通していただければと思います。

  この調査研究はイギリスで行われたもので、666人のアンケート調査結果から「AIツールは効率性とアクセシビリティの面で利点を提供する一方で、ユーザーが深い内省的思考プロセスを行うことを低下させる(認知オフローディング (cognitive offloading))可能性がある」という結論を得たものです。この論文では「高い教育水準人は優れた批判的思考 (critical thinking) スキルを備えている」ことから、AIツールを使用することで「AI技術への批判的関与を促進する教育的介入の必要性を強調し、これらのツールが提供する利便性が本質的な認知スキルを犠牲にしない」施策が必要だとしています。

 論文は、AIツールを利用するときには「批判的思考」を高めるような使い方をするようにするのが望ましいと述べています。冒頭で述べた「できることであっても「やらない」」という選択は、批判的思考があって初めて可能なことです。AIツールを通じた認知オフローディングを止めることは、過去の失敗を繰り返さないために重要な一歩となるような気がします。企業のAI推進を担当する方は、「業務効率化」だけでなく、いかに社員の「考える力」を深めるか、という視点も取り入れていただくといいのではないかと思います。

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2025/1/10<テクニカ・ゼン>CEO寺川貴也が注目するNEWS TOPIC

2025年 新年のご挨拶】

新年、あけましておめでとうございます。

2025年を迎えました。読者の皆様は、よい年末年始を過ごされたでしょうか。今年は昨年の年始のような災害や大事故もなく、天気にも恵まれたお正月らしいお正月だったように思います。

 

2025年もデータの世界では昨年に引き続きAIが中心的な話題となりそうです。昨年末には韓国がAI法を成立させましたし、日本でもこの1月から始まる国会でAI法案が提出されると報道がありました。欧州のAI法も施行が順次始まります。その一方で、各法案を眺めても、その内容は依然としてハイレベルなものにとどまっていることの方が多いというのも事実です。政治的な分断が顕著な今日にあって、事業者がAIコンプライアンスにおいてどうポジション取りをするのかはとても難しい課題です。

 

法律を少し離れてガバナンスに目を向けると、今年はその重要性がより一層増すように思えます。昨年はAIガバナンスの重要性が各方面から唱えられていましたが、こちらも何をどうするのかについては模索している段階でした。2025年は、1年の狂騒を経てより現実的なアプローチが議論されることでしょう。大手トップ企業だからこそ実現可能な高度なものから、中小企業や小規模組織が実装するためのチェックリストに近いものまでさまざまなものが生まれてくると思います。基本は品質マネジメント、環境マネジメント、情報セキュリティマネジメント、プライバシーマネジメントといった従来取り組まれてきたリスクマネジメントのアプローチが軸となりま す。プライバシーコンプライアンスのために確固としたプライバシープログラムを築いてきた事業者にとってはそれほど大きな調整を行うことなくガバナンス体制を拡張できることでしょう。

 

形から入ることは大切です。武道、書道、茶道、華道など、「道」とつくものはすべて「型」を学び、達人の域に達してはじめて自らの形を創り上げます。「型」が正しければある程度の場所、換言すれば、創意工夫が違いを生む前の出発点までは到達することができるのです。でも、その先の「活きた」形に至るには、「型」だけではだめです。私はこのことを大衆浴場のマッサージ器を見て思い至りました。

 

大衆浴場には高価な自動全身マッサージ器があります。それと同時に多くの按摩師が待機するマッサージルームもあります。マッサージ器はいつも空いているのにマッサージルームは予約しなければなかなか入れません。マッサージ器は確かに身体をほぐしてくれるのですが、人手によるマッサージのほうが人の嗜好にあうようです。この事実は、これからのAIの時代を生きる私たちを勇気づけてくれます。

 

AIが普及する時代、AIが実現するのは「型」の完成形にちかいもののように思います。しかし、人はアルゴリズムではないので「型」の次のステージに進みます。次のステージに進むには、「意思」がなければなりません。AIは、この「意思」を持つことはできないため、AIが人を置き換えるということは本質的には難しいことのように感じます。私はAIが消費する膨大なエネルギーについてはかなり心配しているものの、AIの時代に人間社会が順応できることについては楽観しています。

 

事業者において、ガバナンスの重要な役割を担っている読者の皆様の仕事は、まずはこの「型」の完成形に組織を引き上げることになると思います。そうすることで、変化に強いしなやかな組織を生み出すことができます。決して簡単な仕事ではないですが、価値のある仕事なので、ぜひ希望をもって取り組んでいただけたらと思っています。当社は、そういった大切な仕事をされる皆様をサポートし続けられる存在として、当社の努力を続けていく所存です。

 

今年もよろしくお願いいたします。

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2024/8/6<テクニカ・ゼン>CEO寺川貴也が注目するNEWS TOPIC

 

~オリンピック~

 

まさに芸術の都パリ、というべき開会式と共にパリオリンピックが始まりました。

無観客で行われた東京五輪から観客のいる五輪に戻り、観客が選手の名プレーに歓声をあげ、熱気が高まっています。

その道を極めた一流の選手たちが試合に挑む姿には心を動かされます。

有名無名にかかわらず、どの選手のゲームも見ごたえのある戦いです。

 

スポーツのゲームを見ていると、試合は過程こそが醍醐味だと感じます。

結果速報や試合のダイジェストだけではわからないものが多くあると感じます。

例えば、今回の女子サッカー予選のブラジル戦がいい例です。1-0でリードを許し、

アディッショナルタイムに入ってから試合がひっくり返るというドラマは1-2というスコアだけでは知る由もないでしょう。

ニュースやSNSではメダルの数が取りざたされますが、メダルは結果でしかなく、本当の価値はその過程にあるはずです。

 

メダルが重要ではないと言っているのではありません。

メダルは決定的な役割を果たしています。競技をさらなる高みに引き上げた優れた選手を讃えることで、メダルは競技の可能性を広げています。

優れた努力を行った選手は特に表彰されるべきです。オリンピアになった時点で、選手はその道を究めています。

その中で突出した選手は純粋に敬意を示すに値する存在であり、目標となる存在です。

より高みを目指したいという人の持つ欲求が、競技の質とレベルを底上げします。

「みんな等しく素晴らしい」という陳腐な価値観は、メダルという形で明確に否定されています。

 

メルマガなので、以下言わずもがなのことを書きます。

スポーツの世界も仕事の世界も変わらない、ということです。

 

ガバナンスの仕事は社内に文化を創る仕事です。

ルールを決め、試し、機能しない場合は修正します。

ガバナンス不全で会社に大きな損害をもたらすこともしばしばあります。

試合に大敗するようなものです。仕事の場合は会社の存続している間が試合となるため、スポーツよりスパンを長く見なければなりません。

ガバナンス不全が蔓延しても、アディッショナルタイムで試合がひっくり返ることがあるように、健全なガバナンスの状態へ導くことは可能です。

ガバナンスに携わる人が技を磨き、創意と工夫をこらし、最後まであきらめずに力を出し続けること、

ガバナンスを実現するという「勝利」に執念を抱くことができれば、どんなガバナンス不全からも回復する可能性はあります。

 

スポーツのゲームでは勝負が一瞬で決まることも珍しくありません。

ガバナンス不全も、「できる」と思った瞬間あっというまに発現してしまいます。

雑な仕事をすると雑な結果しか生まれません。過程が大事だからです。

ガバナンスに携わる者たち、とりわけリーダー格の人たちのコミットメントが高く求められます。

仕事の場合、ゲーム終了のホイッスルがいつなるかわからない分、さらに難しいゲームに挑まなければなりません。

 

オリンピックのゲームを見ていると、心が鼓舞されます。真剣に挑む選手の姿がそうさせるのだと思います。

仕事でも、真剣に取り組む人がいれば、周りのスタッフは鼓舞されることでしょう。

もしそうではないスタッフが周りにいるのであれば、そのチームは機能していないので修正するときです。

 

ガバナンスの仕事は、とてもむつかしい仕事だと思います。

オリンピアの選手のように、常にベストを目指して挑み続けていただければと思います。

当社は、そういったプロフェッショナルのサポートをする会社でありたいと思っています。

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2024/7/30<テクニカ・ゼン>CEO寺川貴也が注目するNEWS TOPIC

 

~バランスを忘れないで~

 

ここ1週間は、トランプ前大統領の暗殺未遂、クラウドストライクが原因となったシステム障害、バイデン大統領の大統領選撤退と大きなニュースが続きました。

灼熱の暑さの中、こういったニュースに触れるのは気持ちの良いことではありません。

少し前まではそこにあると思っていた「秩序」が次々に消えていくような感覚もあります。

変化は必然ですが、「善い方向にむかっている」と感じている人は少ないのではないでしょうか。

 

エントロピーが増大するように、これまで社会をつなげていた何かが次々にちぎれてはなればなれになっている、という感覚です。

 

今回のシンガポールの滞在最終日、7月18日にCIPLが主催した”The GDPR’s First Six Years”と銘打ったパネルディスカッションに呼んでいただきました。

Global CBPR Forumでご一緒した古い友人のBojanaさんが誘ってくれて偶然参加できたのですが、今回のシンガポール出張で一番よいセッションだったと思います。

内容は、GDPRが施行され6年たち私たちの社会にどのような影響を与えたかを振り返るというものでした。

興味のある方は以下のリンクからぜひ読んでください。

 

www.informationpolicycentre.com/uploads/5/7/1/0/57104281/gdpr_six_years_on_cipl_may24.pdf

 

パネリストはMeta社やGoogle社、イギリスの大学教授とデータプライバシーの最先端を行く人々でした。

面白いと思った指摘は、GDPRを通じてデータ保護が何にもまして重要という扱われ方をするようになったという指摘です。

データ保護とは他の権利とのバランスの中で保護するものであり、他の権利に優越するものではありません。

それが、あたかも絶対的な権利のように扱われ、権利を主張する個人が猛威を振るう状況が生まれている、という観察が行われていました。

その結果、当局は膨大な苦情に圧迫され、リソース不足に苦しみ、社会の非効率化とデータ保護の機能不全を招いているという意見です。

 

SNSが発達し、かつてないレベルで個人の意見が「聞かれる」状況がうまれ、多くの個人がその状況を享受するようになりました。

作られた当初に込められた法律の裏にある善意が忘れられ、「主張」し、「正義」を振りかざす人が増えているのは確かなようです。

責任を伴わない自由、というのでしょうか。

皮肉なことに、「正義」のために立ち上がった個人が社会の非効率化を招き、最終的に「不正義」を生み自身が不利益を受ける状態を生み出してしまっています。

 

権利というのはつくづく諸刃の刃だと思います。

上手に扱えない人が振り回すと困る人が増えるからです。

実は、今回の旅では別件でも権利を振り回すことで周囲が困ってしまうという状況に対処しなければならないという話を友人から聞かされていたところでした。

 

権利には責任が伴うもので、自らの主張を押し通し続けていたらやりたい放題できるということにはならないことを再認識しなければならない時がやがて来ると思います。

トランプ前大統領の駆け引きや「告発系」YouTuber、「迷惑系」YouTuberたちの姿に悪い例を見た人は多くいるはずです。

社会の一員として、どのような社会を形作るのかを考えて選択をしていきたいものです。

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2024/7/17<テクニカ・ゼン>CEO寺川貴也が注目するNEWS TOPIC

~シンガポールから~

今年もIAPPのAPF2024に参加するためにシンガポールに来ています。シンガポールのIAPPのイベントは規模こそ大きくありませんが、データ保護当局であるPDPCが主催するPDPC weekに組み込まれており、IAPP以外のイベントも同時に参加することができるため、いろいろな情報を得ることができます。今年はPETs (プライバシー強化技術)についてのイベントが行われました。残念ながら私は別のパネルディスカッションで参加することがかないませんでしたが、参加した人からは良い内容だったと聞いています。

国際会議に出る目的は大きく二つあります。一つは新しい情報を収集すること、もう一つはつながりを構築することです。カンファレンスでのパネルディスカッションでは、各コミュニティで認められたスピーカーが知見を共有してくれるため、効率よく情報の収集ができます。同時に専門家が集まる場となっているため、当局や業界団体がプレゼンスや指針を示す機会として活用しており、業務を行うための参考となる有益な情報が得られる場所ともなっています。人が集まると、つながりを構築する機会が増えます。ネット上で情報を収集できる時代ではありますが、やはり一番大切なのは顔を合わせたコミュニケーションです。「知っている」誰かの話を通じて得られる温度感は、何物にも代えられない価値があります。

今年のシンガポールは、プライバシー業界が落ち着いた印象があります。プライバシー業界の勢いがなくなったのではなく、プライバシー業界が定着したという印象です。企業ではコストカットでリストラが行われ、プライバシー人材の募集も一定数あるものの、以前のようなハイクラスの求人よりはミドルクラスの求人が中心となっているようです。キャリアを構築するために大学で学位を得るための勉強をしているという話も幾人か聞きました。シンガポールでは就業条件として高い成果と実績を示すことが求められているため、彼らの就業環境は日本では想像できないくらいシビアです。ハラスメント対策で従業員を守らざるを得ない状況となった日本では、今のシンガポールのような働き方は難しいでしょう。マクロな観点からは、日本は競争力に後れをとる要素をはらんでいます。子を持つ親としては、日本の将来が心配になります。

今年はISACAシンガポールのイベントであるGTACS 2024というイベントでパネルディスカッションをすることもできました。私たちが日常の業務で受ける質問によく似た質問をたくさんいただき、セキュリティの専門家を含めたプライバシーについてのアウェアネスの向上が大切な活動の一つに感じました。GTACSに参加してよかったのは、スポンサー出来ていたセキュリティ関連のソフトウェアやサービスに触れることができたことです。プライバシーとセキュリティは重複するところが多いのですが、セキュリティのソフトウェアやサービスがプライバシーに利用されている例はあまり聞いたことがありません。セキュリティ業界で指摘されている課題は参考になるものがあり、とても興味深い時間となりました。

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