【認知オフローディング】
養老孟子さんがどこかでこういっていました。「人間の弱点はできることをすべてやってしまうことです」。彼は続けます。「できることであっても「やらない」という選択ができる人が成熟した人間です」。
「できるからやらなければならない」と開発を進めてきた近代が生じた問題は際限がありません。化石燃料の採掘、森林伐採、際限のない都市開発、増え続ける宇宙ゴミ、海洋資源の乱獲、と数え上げればリストはどこまでも続きそうです。昨今の異常気象は、際限のない人間の活動が原因の一つと言われています。それでもまだ、私たちの行動パターンは変わっていません。AIの開発と活用に前のめりになっている今の世相は、もう一つの「できることをすべてやってしまう」行動の現れのようにも見えます。
生成AIと呼ばれる技術は便利な技術です。カンボジアで出会った大学生たちの大半はほぼ毎日活用していると言っていました。私は、そんな彼らに「便利なツールを使うことは大切で使えるようになるといい。それと同時に、便利なツールを使うとそれまでよりも「考えなくなる」ことに注意してください。ツールを使うためには「考えられる力」が必要です。これからは意図的に「考える」ようにしてください」と伝えました。Meta社がファクトチェックを停止すると宣言するような今の時代、「考え」、煽動されることなく「判断する」賢明さが本当に必要です。「偽情報」や「誤情報」が世の中に出やすくなっている中、「考える」ということは身を護るため のライフスキルといっても過言ではありません。
先日、興味深い論文に出会いました。タイトルは”AI Tools in Society: Impacts on Cognitive Offloading and the Future of Critical Thinking” (社会におけるAIツール:認知オフローディングと批判的思考の未来への影響)というものです。 ( URL: https://news.technica-zen.com/l/m/tIuwdpnCZssR0v ) 非常に良い論文なので、ぜひ目を通していただければと思います。
この調査研究はイギリスで行われたもので、666人のアンケート調査結果から「AIツールは効率性とアクセシビリティの面で利点を提供する一方で、ユーザーが深い内省的思考プロセスを行うことを低下させる(認知オフローディング (cognitive offloading))可能性がある」という結論を得たものです。この論文では「高い教育水準人は優れた批判的思考 (critical thinking) スキルを備えている」ことから、AIツールを使用することで「AI技術への批判的関与を促進する教育的介入の必要性を強調し、これらのツールが提供する利便性が本質的な認知スキルを犠牲にしない」施策が必要だとしています。
論文は、AIツールを利用するときには「批判的思考」を高めるような使い方をするようにするのが望ましいと述べています。冒頭で述べた「できることであっても「やらない」」という選択は、批判的思考があって初めて可能なことです。AIツールを通じた認知オフローディングを止めることは、過去の失敗を繰り返さないために重要な一歩となるような気がします。企業のAI推進を担当する方は、「業務効率化」だけでなく、いかに社員の「考える力」を深めるか、という視点も取り入れていただくといいのではないかと思います。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
≪当社無料メールマガジンのご案内≫
▼メルマガ登録はこちら
https://m.technica-zen.com/ms/form_if.cgi?id=fm
・週1回の配信で、重要トピックや最新ニュース等の情報をお届けしています。
・上記のような当社コンサルタントの専門的視点で注目する、最新ニュースや動向等を読んでいただけます。
・配信不要な場合はメルマガ最下段にてワンクリック解除が可能です。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆