2024/7/30<テクニカ・ゼン>CEO寺川貴也が注目するNEWS TOPIC

 

~バランスを忘れないで~

 

ここ1週間は、トランプ前大統領の暗殺未遂、クラウドストライクが原因となったシステム障害、バイデン大統領の大統領選撤退と大きなニュースが続きました。

灼熱の暑さの中、こういったニュースに触れるのは気持ちの良いことではありません。

少し前まではそこにあると思っていた「秩序」が次々に消えていくような感覚もあります。

変化は必然ですが、「善い方向にむかっている」と感じている人は少ないのではないでしょうか。

 

エントロピーが増大するように、これまで社会をつなげていた何かが次々にちぎれてはなればなれになっている、という感覚です。

 

今回のシンガポールの滞在最終日、7月18日にCIPLが主催した”The GDPR’s First Six Years”と銘打ったパネルディスカッションに呼んでいただきました。

Global CBPR Forumでご一緒した古い友人のBojanaさんが誘ってくれて偶然参加できたのですが、今回のシンガポール出張で一番よいセッションだったと思います。

内容は、GDPRが施行され6年たち私たちの社会にどのような影響を与えたかを振り返るというものでした。

興味のある方は以下のリンクからぜひ読んでください。

 

www.informationpolicycentre.com/uploads/5/7/1/0/57104281/gdpr_six_years_on_cipl_may24.pdf

 

パネリストはMeta社やGoogle社、イギリスの大学教授とデータプライバシーの最先端を行く人々でした。

面白いと思った指摘は、GDPRを通じてデータ保護が何にもまして重要という扱われ方をするようになったという指摘です。

データ保護とは他の権利とのバランスの中で保護するものであり、他の権利に優越するものではありません。

それが、あたかも絶対的な権利のように扱われ、権利を主張する個人が猛威を振るう状況が生まれている、という観察が行われていました。

その結果、当局は膨大な苦情に圧迫され、リソース不足に苦しみ、社会の非効率化とデータ保護の機能不全を招いているという意見です。

 

SNSが発達し、かつてないレベルで個人の意見が「聞かれる」状況がうまれ、多くの個人がその状況を享受するようになりました。

作られた当初に込められた法律の裏にある善意が忘れられ、「主張」し、「正義」を振りかざす人が増えているのは確かなようです。

責任を伴わない自由、というのでしょうか。

皮肉なことに、「正義」のために立ち上がった個人が社会の非効率化を招き、最終的に「不正義」を生み自身が不利益を受ける状態を生み出してしまっています。

 

権利というのはつくづく諸刃の刃だと思います。

上手に扱えない人が振り回すと困る人が増えるからです。

実は、今回の旅では別件でも権利を振り回すことで周囲が困ってしまうという状況に対処しなければならないという話を友人から聞かされていたところでした。

 

権利には責任が伴うもので、自らの主張を押し通し続けていたらやりたい放題できるということにはならないことを再認識しなければならない時がやがて来ると思います。

トランプ前大統領の駆け引きや「告発系」YouTuber、「迷惑系」YouTuberたちの姿に悪い例を見た人は多くいるはずです。

社会の一員として、どのような社会を形作るのかを考えて選択をしていきたいものです。

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2024/7/17<テクニカ・ゼン>CEO寺川貴也が注目するNEWS TOPIC

~シンガポールから~

今年もIAPPのAPF2024に参加するためにシンガポールに来ています。シンガポールのIAPPのイベントは規模こそ大きくありませんが、データ保護当局であるPDPCが主催するPDPC weekに組み込まれており、IAPP以外のイベントも同時に参加することができるため、いろいろな情報を得ることができます。今年はPETs (プライバシー強化技術)についてのイベントが行われました。残念ながら私は別のパネルディスカッションで参加することがかないませんでしたが、参加した人からは良い内容だったと聞いています。

国際会議に出る目的は大きく二つあります。一つは新しい情報を収集すること、もう一つはつながりを構築することです。カンファレンスでのパネルディスカッションでは、各コミュニティで認められたスピーカーが知見を共有してくれるため、効率よく情報の収集ができます。同時に専門家が集まる場となっているため、当局や業界団体がプレゼンスや指針を示す機会として活用しており、業務を行うための参考となる有益な情報が得られる場所ともなっています。人が集まると、つながりを構築する機会が増えます。ネット上で情報を収集できる時代ではありますが、やはり一番大切なのは顔を合わせたコミュニケーションです。「知っている」誰かの話を通じて得られる温度感は、何物にも代えられない価値があります。

今年のシンガポールは、プライバシー業界が落ち着いた印象があります。プライバシー業界の勢いがなくなったのではなく、プライバシー業界が定着したという印象です。企業ではコストカットでリストラが行われ、プライバシー人材の募集も一定数あるものの、以前のようなハイクラスの求人よりはミドルクラスの求人が中心となっているようです。キャリアを構築するために大学で学位を得るための勉強をしているという話も幾人か聞きました。シンガポールでは就業条件として高い成果と実績を示すことが求められているため、彼らの就業環境は日本では想像できないくらいシビアです。ハラスメント対策で従業員を守らざるを得ない状況となった日本では、今のシンガポールのような働き方は難しいでしょう。マクロな観点からは、日本は競争力に後れをとる要素をはらんでいます。子を持つ親としては、日本の将来が心配になります。

今年はISACAシンガポールのイベントであるGTACS 2024というイベントでパネルディスカッションをすることもできました。私たちが日常の業務で受ける質問によく似た質問をたくさんいただき、セキュリティの専門家を含めたプライバシーについてのアウェアネスの向上が大切な活動の一つに感じました。GTACSに参加してよかったのは、スポンサー出来ていたセキュリティ関連のソフトウェアやサービスに触れることができたことです。プライバシーとセキュリティは重複するところが多いのですが、セキュリティのソフトウェアやサービスがプライバシーに利用されている例はあまり聞いたことがありません。セキュリティ業界で指摘されている課題は参考になるものがあり、とても興味深い時間となりました。

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2024/7/8<テクニカ・ゼン>CEO寺川貴也が注目するNEWS TOPIC

~同窓会~

先日、中高時代の東京での同窓会があり参加してきました。
私が通っていた六甲学院という学校はイエズス会の学校で、上智大学の姉妹校です。
毎年関西と東京で同窓会があり、今年は私の代が幹事を割り当てられていました。
私学の良いところは建学の精神が明確で、学校独自の文化が形成されていることだと思います。
同窓会で先輩後輩が一堂に会しても、どこか通じるものがあり、充実した時間を過ごすことができます。

今回は、卒業生で、コロナ禍にあって治療が必要な人に医療を届ける「KISA2隊」を立ち上げられた守上佳樹さんをお招きし、
話を伺うこともできとても感銘を受けました。
制度の垣根を乗り越えて、新しい地域医療の在り方を築きつつある方の姿には勇気をもらいました。

守上さんは、活動当初、
「きみ、なんでそんなことをしているんだ?そんなことをしてもなんの得にもならないし、きみがコロナに感染してコロナを広めてしまったら余計に迷惑ではないか」
と声を掛けられていたそうです。
それが2年後、様々な苦労を経て世の中から活動の意義を認められるようになると、
「君たちは、どうやったらそんなことができるんだ?」と問われるようになったそうです。
問いかけが”why?”から”how?”に変わった、自分たちがやっていることは同じことだけれど、世間が変わってきた、と守上さんは言っていました。
方向性が間違っておらず、やる価値があることであれば、やってしまうのがいいのです。

守上さんの話は「対談」という形で実施し、東大の歴史学/政治学の教授をされている五百旗頭薫先生にお相手をお願いしました。
五百旗頭先生は守上さんの講演のあとのコメントで、悪循環を断ち切るために日本の社会が試みてきたのは好循環を作りだすことだった。
守上さんの活動は、医療界が陥っていた悪循環を好循環で断つという姿に見えるとコメントをされていました。
悪循環を止めようとしても巻き込まれるのが往々です。
好循環をぶつけることで悪循環を卑小化し、より好ましい方向へと軌道を修正するというのが良い方法だというのは、頷く人も多いように思います。
歴史学は、社会を新たな視点から見る視座を与える学問なのだと思います。
世の中を俯瞰して、そこに意味を与えるという作業が歴史であるとすれば、
プログラミングや金融といった「実学」が持ちえない貴重な価値を社会に提供しているようにも感じました。

上智大学の創設期、関東大震災のころにドイツから日本にわたってこられた神父にヘルマン・ホイヴェルス神父という人がいます。
彼の随想集「人生の秋に」の中で日本人にとって、「人間の価値、また存在理由と進歩、自己完成など」について、
西洋で当然視されることが日本では「漠然たる無神論」(善悪の問題ではなく)ゆえに当然視されないことを指摘しています。
日本の社会にあっては、無批判に欧米のアプローチを援用することは難しいようです。
プライバシーやセキュリティ、AIのルールメイキングは欧米が主導していることが多いのですが、
それをなんの工夫もなく組織に当てはめようとするとうまくいかないというのは、いわれのないことではないのです。

活動は、理解してもらってから進めるのではなくまず進めてから理解を得るという方法があること、
悪循環を止めてから好循環を回すというのではなく、悪循環を止めるために好循環を生み出すアプローチがあるということ、
欧米の思想とモチベーションは、日本社会では加工してからでなければなかなか受け入れることができないということ、
そんなことを考えさせられた一日でした。

 

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~AIが解けない問題~

 

7月に入り、シンガポールでのパネルディスカッションの準備が忙しくなってきました。

スライドの準備、ディスカッションを通じてデリバーすべき価値の確認等、私たちは割としっかり準備をして望んでいます。

個人的にも視野を広める機会となるため、お声がけをいただければ必ず受けるようにしています。

 

シンガポールでは、IAPPのイベントとISACAのイベントで話をします。

IAPPのイベントでは、GAIのガバナンスについての実践的なアドバイス、という非常に関心の高いテーマを取り上げます。

ISACAのイベントでは、現在のプライバシー、セキュリティ上の世界的課題という少し大きな視点での話となります。

どちらも実用的で、示唆に富んだディスカッションとなりそうです。

 

生成AIについての企業の関心は依然として高いレベルを維持しています。

どちらかというと、如何に「活用」できるか、という視点に偏っているのですが、

このメルマガでも幾度か指摘してきた通り、

現時点のAIは、機械学習の領域を抜けていない一ツールに過ぎないという視点を忘れてはいけないことを再度確認しておきたいと思います。

AIは、私たちに代わって問題を解決するのではなく、私たち人間の支援をする役割のみしか担うことはできません。

 

今話題のLLM (大規模言語モデル)を例にとって、AIの限界を紹介しましょう。

現在の生成AIツールは、以下の簡単な質問にうまく答えることができません。(2024年6月30日時点)

 

A farmer stands at the side of a river with two sheep.

There is a boat with enough room for one person and two animals.

How can the farmer get himself and the sheep to the other side of the river using the boat in the smallest number of trips?

 

農夫が羊2匹を連れて川のほとりに立っています。

1人と2匹の動物が乗れるボートがあります。

農夫と羊をボートで川向こうまで、最も少ない回数で移動させるにはどうすればよいでしょうか?

 

Open AI のChat GPT-4oの回答は次の通りです(日本語に翻訳)。

 

このパズルを解くには、農夫は以下の手順で羊を川向こうに渡せばよい。

ボートには1人と2匹までの動物しか乗れないという条件を守りつつ、移動回数を最小限に抑えることができる。

  1. 農夫は両方の羊を川向こうに渡す。
  2. 彼は一方の羊を向こう岸に残し、もう一方の羊を元の岸に戻します。
  3. 農夫は2匹目の羊を元の岸に残し、一人で川を渡る。
  4. 最初の羊を再び拾い上げ、川を渡る。

 

このようにして、農夫と2匹の羊は、羊を連れて渡る2回と、1人で戻る1回の合計3回の渡河で、川の向こう岸に到着します。

これは、制約条件を考慮した場合、必要最小限の渡河回数です。

 

AntrhopicのClaude 3.5の回答は以下の通りです(日本語に翻訳)。

このステップを順を追って考えてみましょう。

まず、どのような動きが可能かを考えてみましょう。

農民は一人で出かけることができる

農夫は羊を1匹連れて行くことができる

農民は羊を2匹連れて行くことができる

船は農夫なしでは動かない

目標は、農夫と2匹の羊をできるだけ少ない回数で渡ることです。

 

最も効率的な方法は次のとおりです。

1回目の旅:農夫が2匹の羊を連れて渡る

2回目の旅:農夫は一人で戻ります

3回目の移動:農夫は一人で渡る

この解決策では、3回の移動で済みます。

これが本当に最小回数であるかどうか確認してみましょう。

農夫なしでは船は動かないため、1回の旅では不可能です

農民がボートを操縦するには両側にいる必要があるため、2回の旅では不可能です。

3回の往復が最短の回数です

 

したがって、農夫は自分と2匹の羊を川向こうに渡すのに、最低でも3回の往復が必要です。

この解答について、詳しく説明しましょうか?

 

GoogleのGeminiの回答は次の通りです(日本語に翻訳)。

 

農夫は、3回の往復で自分と2匹の羊を川向こうに渡らせることができます。

 

1回目の旅:農夫が1匹の羊を川向こうに渡す。 (向こう岸に農夫と1匹の羊、出発岸に1匹の羊)

2回目:農夫は一人で戻ってくる。 (農夫は出発地点に、農夫と1匹の羊は対岸に、1匹の羊は出発地点に)

3回目:農夫が残りの1匹を川向こうに渡す。 (農夫と2匹の羊が川向こうに)

 

1匹ずつ戦略的に連れて行き、必要なときには1人で戻ってくることで、農夫は同じ川岸に羊を1匹も残さないようにする。

 

最初に羊二匹を対岸に渡せば終わりなのですが、ハルシネーションを起こし、おかしな回答を生み出してしまっています。

この質問は「オオカミ、ヤギ、キャベツを飼う農夫が、ボートで川を渡らなければならない」というよく知られた問題をひねったものです。

オンラインで広く取り上げられているため、間違いなくすべての LLM の事前学習データセットに含まれていたはずですが、

想定外のひねりが入ったためにうまく答えることができなくなったのです。

LLMはコンテンツの合成、要約、結合といったことはアルゴリズムのロジック上得意ですが、推論はできないのです。

(そして、この特徴は現在のアルゴリズムが採用される限り本質的に解消されない問題と言えます。)

 

シンガポールで共にパネルディスカッションをするYuriy Yuzifovichは、

AIが今騒がれる理由は、「擬人化」(Anthropomorphism)にあると言っています。

人が過度に感情移入する状況が生まれ、それが社会を不安にしかねないからガードレールが必要だ、というのです。

 

ニュースでもご存じのように、日本を含め世界中の社会構造が揺さぶられている中、

その揺さぶり幅を増幅するツールが登場しているのは皮肉なことです。

AIガバナンスとは、正しくガードレールを設置し、望まない結果に対して緩衝帯を生み出すことです。

企業や組織が担うべき役割が大きくなっている時代だと思います。

 

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