欧州の歴史を振り返ると一つのキーワードが浮かび上がってくる。
“Harmonization”(調和)である。
私が初めて海外法規や規格に関わるようになった時、”Harmonization”という言葉がしばらくピンとこなかった。
ほぼ同質化した文化を前提とし、半ば同質化することを当然視している日本人にとって、”Harmonize”(調和する)という行為自体が非日常的なものかもしれない。
しかし、欧州は事情が違う。力が相克し、大きな痛みを経てきた欧州では、その反省を踏まえて「欧州の統合」という試みを行ってきた。
近年のギリシャ債権問題やBREXIT問題で「失敗」を揶揄されているが、平和と安定への切実な願いから、欧州は「共同体」として協調する術を模索し続けてきた。
データ保護指令(Data Protection Directive: 95/46/EC)は、欧州で現在施行されているdata protection(データ保護)に係る指令だ。
「指令」とは「法律」ではなく、「法律」を作るうえでの「青写真」である。
産業界で使用されている「低電圧指令」や「機械指令」といったものも、同じ位置づけで、「法律」ではなくその「土台」を規定する。
実際の法令は、各国が制定する。「調和」するためには、大きな概念を定め、「中身」は加盟国が決めて良いというバランス感覚がその背後にある。
データ保護指令(Data Protection Directive: 95/46/EC)に置き換わる欧州一般データ保護規則(General Data Protection Regulation: 以下GDPR)は、他方「規則」=「義務」である。
各国が「法律」を定めずとも、「義務」として欧州連合加盟国は遵守しなければならない。車関係の型式認証で知られている「Regulation(規則)」も同じ位置づけである。
「Directive (指令)」と「Regulation (規則)」を使い分ける理由はただ一つだ。
欧州連合加盟国で「単一のルール」を設定したいときには「Regulation (規則)」を作成し、ある程度ばらつきを許容する時には「Directive (指令)」で対応する、というイメージでほぼ間違いはないだろう。
「協調」を模索する社会では、加盟国の自由を尊重するために「Directive (指令)」が好まれる。「Regulation (規則)」が用いられるのは、もしくは「国と国との間の相違」が共同体の経済運営上効率性を阻害する場合となる。
data protection(データ保護)は、当初「Directive (指令)」で運用された。しかし、加盟国間の相違点が、特にデータの越境移動時に問題となることが多くなり、経済運営上効率性を阻害するようになった。
GDPRが制定された背景はそこにある。
ちなみに、GDPRは自由度も残している。GDPRの条項のうち約50の条項については加盟国ごとに明確化、除外規定を設定してもよいこととなっている。
GDPRの解釈についての助言を行うのがWP 29 (The Aerticle 29 Working Party)である。WP29はデータ保護指令(Data Protection Directive: 95/46/EC)に対して設置された専門部会で、”Opinion”を公表しその正式な解釈を示してきた。
“Opinion”には法的拘束力はないが、欧州の監督機関はWP29の助言に基づいて判断を行うため、実質的に拘束力を持っている。
なお、GDPRが施行されるまでは、GDPRについての”Opinion”も公表する。GDPR施行後はWP29は廃止され、European Data Protection Board (EDPB)がその地位継承する。
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