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~タイパと農場の法則と便利なツール~
今年から当社ではインターンを迎え入れるようになりました。
当社には周辺業務やリサーチ業務を手伝ってもらえるという良さがあり、インターンにとっても当社の扱う最新の情報や現場の雰囲気を実感できるとともに仕事の基礎を学べるという良さがあります。
1月にはイリノイ大学からMarkさんが、6月にはプリンストン大学からYさん(日本人)が来てくれました。お二人ともとても優秀で、期待値をはるかに超える水準で助けてもらえました。
二人とも当社でのインターンを楽しんでくれたようです。
当社のスタッフも、若い方が入ってくれることで新しい風が社内に吹き、インターンのいる仕事場を楽しんでいました。
最近、日本の若者の間ではタイパという言葉がはやっているようです。
とにかくテンポよく次々に物事をこなし、重要なことにのみ焦点を当てるというスタイルのようです。
私が仕事について学んだ時には「農場の法則」というものを教えられ、春に種を蒔き、夏に雑草を刈り、秋に収穫し、冬に土地を休ませるというプロセスの大切さを学びました。
「当たり前のことを馬鹿になってちゃんとやる」、という当社の価値観の一つはここからきています。
「タイパ」と「農場の法則」は反対のアプローチのように思えます。
前者は大量生産大量放棄の考え方で後者は循環の考え方だからです。
今年当社に来てくれたインターンたちは、少なくとも仕事については「農場の法則」を共有できる人たちだったので、
すべての若者が「タイパ」のみを基準とし、コミュニケーションができないというわけではないと思います。
また、タイパは最新のデジタル技術に対応した生態の一側面で、人としての成熟については若者も昔若者だった人も同じ土俵で測れるような気がしています。
人として成熟している若者もいますし、人として未熟な昔若者だった人もいます。
レッテルをはって人を評価するのはよくありません。
タイパの若者たちが活用するのがスマホ等のデジタルツールです。
効率よく大量の情報を処理することで、回転率を高めます。
AIツールでそのスピードはさらに加速します。
スピードが速いということは悪いことではありません。
必要以上に時間がかかることには悪弊のほうが目立つため、決して褒められたものではありません。
スピードが速いことの問題は、車の教習で習うように、視野が狭くなることです。
限られた視野の中でつじつまを合わせていくことが主眼となるため、一つひとつの作業が雑にならざるを得ません。
深みが欠けてしまいます。
皮肉なことに、良い仕事は丁寧な仕事から生まれることが多いため、悪弊を取り除くつもりの高速回転は、いつの間にか品質そのものを劣化させるサイクルへと変化してしまうケースが多いのです。
また、そのような仕事をする組織は殺伐とした雰囲気になることも多い気がします。
デジタル社会では、個人データに限らず様々なデータをとにかく分析し、集積し、推論します。
データを応用することで新たな価値を見出すことは推奨すべきことです。
デジタル化のおかげで私たちの生活は多くの面で改善しています。
その一方で、急速に進むゆえにサイドエフェクトへのチェックが甘いことも問題となっています。
データプライバシーの問題も、AIによる偏見の問題も、急ぎすぎた故に生まれました。
振り返れば人類は、石油採掘、森林伐採、核技術の利用、灌漑、鉱物の採掘、と様々な分野で急速に技術や産業を加速し、そのバックラッシュに苦しんできています。
今年の熾烈な暑さのように体感できる段階になって、問題に気付くことが多いようにも思います。
あとで振り返れば、バランスをとることができる点がみつかることがあります。
先見の明のある一部の人々があらかじめ声を上げていたということもわかります。
ただ、そういった人たちは少数で、悲観的な人とみなされ、黙殺されます。
その重要性に気が付いた時には既に遅いので、対処療法に追われることになります。
人の営みを扱うガバナンスも似たところがあります。
ルールやプロセスがブレーキとして機能しすぎると弊害が生まれます。
その一方で、形骸化したルールやプロセスのみを採用して高速回転させると、骨密度が低いもろく危険な組織が生まれます。
私たちガバナンスの専門家は、常に先見の明があるわけではないのですが、仕事柄「坑道のオウム」のように組織の中の問題を早い段階でかぎつけ騒いで退避する(是正する)よう声を上げます。
組織がそれをくみ上げるかは組織次第です。
声を上げた場所の先に金鉱があれば、組織はそのまま前に進んでしまうこともありますし、金鉱とは別の価値観を持つ組織であれば、そこでとどまり、別の道を探ります。
ガバナンスを仕事にするということは、こういった人間的な側面を理解した上で仕事を行うということだと思います。
タイパも大切、農場の法則も大切、便利なツールは使うべき、だけど後で後悔しないようにしたい。
その時、何を選べるか、何を選ばないかが、ガバナンスの専門家としての腕の見せ所ではないかなと思います。
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