【読み物】成熟とプライバシー

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6月、アメリカに行って感じたことの一つに、成熟した成人とは何か、ということがありました。これは最近私が塩野七生さんのローマ人の物語を読んでいることも関係すると思うのですが、「高貴な義務(ノブリス・オブリージュ)」に身をささげたローマの貴族たちと、成功した実業家が国に公共施設を寄付するアメリカが重なって映ったからかもしれません。

アメリカは貧富の格差も大きく、ヘイトも多くみられ、残念な出来事もたびたび報告されていますが、初めてメインランドを訪れた私にとっては、それを補って余りある成熟した社会に映りました。

アメリカにいる間、私はたくさんのアメリカの人たちと話をする機会に恵まれましたが、私があった人々はコミュニティや社会をよくするために行動を起こす人々でした。たとえばD.C.で私をホームパーティーに呼んでくれたあるゲイカップルは、失業中にもかかわらず人のつながりを大切にしているため1000ドルはくだらない私財を投じてホームパーティーを開いていました。ホームパーティーには子供から大人まで、DCならではの仕事をしている人が大勢訪れ、自由に意見を交わしていました。彼らにとって、そんなパーティーを開くことは何の得にもなりませんが、それがコミュニティにとってsomething goodにつながると信じているから、ただやっているのです。

IAPPのleadership retreatでも、IAPPの設立からずっと働いているという女性が”because I can feel I am contributing to something good”といっていました。ボストンにも、ニューヨークにも、DCにも、ニューハンプシャーにも、その土地にゆかりのある富豪が寄付したという公共の建物がありました。私は、そういう人たちに素直に尊敬の念を抱いてしまいます。彼らは自らの意欲を追求し、得たものを自分だけのものとせず公に還元しようとしています。まさに、「ノブリス・オブリージュ」のように感じます。

ローマの皇帝たちも、帝政時代は私財を蓄えることよりも、ローマに尽くすことに心を砕きました。激務にも関わらず、正しいことをしたからといって報われない仕事を、卓越した義務感からこなした人々だった印象を受けます。善意が市民に伝わらず殺害された皇帝もいる中、something greatに身を注いだ皇帝たちは幸福な人々だと思います。

私は、成熟した社会とは、私利私欲を超えたsomething goodに身をささげたいと思う人がどれだけいるかで決まるように感じます。something goodに身をささげるということは、DCのパーティーやローマの皇帝たちが示すように、報われるものとは限りません。報われるかどうかを超越したところで行われる行動です。こういった行動は、自分の生きる理由を理解し、その理由に向かって進むことができる人にしか選べないでしょう。

つまり、成熟した社会とは自立した人が多くいる社会とも言い換えられます。自分の存在理由を人に決めてもらう必要がない人がたくさんいると、社会は成熟するのです。人に自分の価値を決めてもらう必要がない人は、自分以外の人が何を選択するのも自由だと知っています。だから、相手に対して敬意をもって接することができます。相手の在り方を縛り付けたり、相手の選択肢を奪うことは、人間の尊厳にかかわることなのでしません。ましてや相手にヘイト発言を行ったり、怒鳴りつけるようなことは、公正な人の扱い方ではないので選択しません。

私は、プライバシーとは自分と人との違いを認め、境界を認めることだと考えています。プライバシーとは一人ひとりが、何を共有し、何を共有しないかを決める自由を認めることです。そこには正解も不正解もなく、ただ、個人の選択があるのです。それを無視することは、相手の尊厳を損ね、人として自立する権利を奪うこととなるので、してはならないのです。

プライバシーとは、したがって、個人の個性を認められる成熟した社会のものだと思います。そして、個性を認められた人が、この社会をよくしようと思える時、私たちの生きる社会はより良い場所になるのだと考えています。

プライバシーの成熟度とは、個としての個人の成熟度、社会の成熟度と密接に関係しているのではないかと感じます。データ・プライバシーにかかわる仕事とはいい仕事です。特に若い人たちにどんどんかかわってもらいたいと思います。

IAPPのknowledgeNETでは来年度からの幹事に2つ席があきます。2年間のボランティア活動ですが、大切な仕事なので、関心がある方、とくにいろんなことを試してみたいと思っている方にぜひ立候補していただきたいと考えています。